リレーエッセー Relay Essay
                              音楽・九条の会呼びかけ人による

第4回 湯川れい子さん(音楽評論家・作詞家)
  憲法九条は諸悪の根源だとまで言い切る人たちがいます。40代から50代の男性に多いよう
 です。
  ということは、戦争の爪跡をほとんど知らず、ヴェトナム戦争や学園紛争が不毛な結果を
 しらじらと見せて終結し、日本が経済大国として胸を張って世界のマーケットに商戦を挑ん
 で行った頃に、大きな夢を持って受験勉強に勝ち残ってきた人たちです。
  その人たちの発言や書いたものを読むと、戦勝国のアメリカが、日本を骨抜きにするため
 に作った憲法で、わたしたち日本人は体も心もがんじがらめに縛られて、名誉ある自立や独
 立を勝ち取れないままに、いつ牙をむいて襲いかかってくるかわからない危険な隣国に囲ま
 れながら、同盟国アメリカと集団的自衛権を誇りをもって行使することもできず、ただ安穏
 として手をこまねいている。もしこれで日本の周辺国有事が勃発したら、誰が大切な日本人
 の命を守ってくれるのか、というのがその論旨です。
  私は、誰も守ってくれないと思っています。武器で守れる平和などないからです。日本が
 武装したとたんに、攻撃する口実を持った国は、喜んで攻めてくることでしょう。人口の半
 分以上が60歳を超えた日本で、一体誰が闘えるというのでしょう。
  今や、アメリカはお金がないから、なんとか日本に九条を捨てさせて、極東の軍備を肩代
 わりさせ、高い武器を売りつけようと、虎視眈々としています。
  あの憲法は、仮にアメリカが作ったにせよ、日本人は涙を流して喜んだのです。父や兄を
 戦争で失った私などは、何と素晴らしい平和の誓いだろう!と、こんな憲法を持った日本に、
 心から誇りを抱いたものでした。日本は、原爆を二つも落とされ、健康な若い男はほとんど
 戦場に取られ、この小さな島にドカスカと爆撃が落とされて、何十万人もの人が死んだんで
 すよ。冗談じゃない!
  だから外交が大切なのです。今やテロよりも怖い温暖化を少しでも食い止めるために、最高
 の環境技術を持っている日本は、みどりを植え、井戸を掘り、淡水プランクトンを作り、太陽
 光発電や、その他アートや音楽やさまざまな力で、中国、インド、韓国などアジアの国々と仲
 良くしなくちゃ。政府も民間も一生懸命に交流を心がけましょう。相手は十億を超える人間が、
 核をもっている広大な国々です。小さな日本は武装するほど危険なのに・・・。


第3回 桂 直久さん(大阪音楽大学名誉教授・オペラ演出家)
  いよいよ国会で、憲法の改正が審議されることになってきました。本当に今必要なのは憲
 法の改正でしょうか。私達の生活が、ごく一部の人々を除いて、ますます苦しくなりつつあ
 る今、生活の最低ラインを維持することへの議論と実践が最重要課題ではないでしょうか。
  私は特攻隊の生き残りの一人として、戦後ずっと戦争の悲惨さと罪悪感を考え続けてきま
 した。二度と戦争への道を歩むことはしてはいけないと思い続けてきましたが、世界各地で
 の紛争や戦争もあって、次第に「あの悪夢」が最近特に具体的に身近に迫ってきたように感
 じます。
  戦争を始めるための偽りの「大義名分」はどうにでもいえます。いかにももっともらしい
 言葉で次第に人々をだまし続け、あげくのはてには多くの弱者と若者が、その犠牲になるこ
 とを、歴史が明確に証明しています。
  今、私達がしなければならないことは数多くありますが、「平和憲法」特に第九条の精神
 と哲学を全世界に向けて発信することではないでしょうか。オリンピックで日の丸の旗を掲
 げることもいいかもしれませんが、「第九条」の旗をそれ以上に高く掲げ、戦争の愚かさと
 罪悪性を世界にアッピールすることが、今最も急務だと思います。そのためには一人ひとり
 が、あらゆる場所で、あらゆる機会をとらえて、行動を起こし、世界的規模で「第九条の精
 神」の世論を創り上げる時期にきていると思います。
  スイスのように「永久中立」を日本が宣言することは不可能でしょうか。一切の戦争を放
 棄し、一切の武器を持たず、非暴力を旗印として、アジアの一角で「第九条」の旗を掲揚し
 て、あらゆる平和にかかわる国際会議を日本で開催することは不可能でしょうか。このよう
 な状況の変化の実現こそ、本当の「美しい国、日本」が実現するのではないでしょうか。
  終わりに、非暴力の「非協力運動」(非暴力・不服従)を説き、平和運動に大きな影響を
 与えたマハトマ・ガンジー(1869−1948)の孫娘エラ・ガンジーさんが昨年、初めて日本を
 訪れ、「非暴力」について語られた一部を紹介します。(朝日新聞1月30日朝刊)「人はだ
 れでも平和を望んでいます。でも集団になると利益を主張し始めます。その集団の、特定の
 少数の人たちだけが恩恵を受ける利益です。個人は孤独で無力なのに、集団になると力を背
 景に主張し始めるのも人間です。」と、各地域から意識を変え、世界に広げる重要性を訴え
 ています。



第2回 櫻井 武雄
さん(大阪芸術大学名誉教授)
  1.憶えていますか あの焼け野原を
    緑の草木が 芽生えた嬉しさを
  2.忘れていませんか 平和を求めて
    生命を落した あの若者たちを
  3.ビルが建ち並び 傷跡を隠す
    明日は来るだろう 多分明日は来る
  4.陰りを知らない 世代が街を行く
    いつか遠くなる 遠くヒロシマが
       (G.ムスタキ詞・曲 ヒロコ・ムトー訳詞)

  この歌は、ギリシャ人でパリを中心に世界で活躍するシンガーソングライター、
 G.ムスタキのシャンソンです。
  かつて日本(ヒロシマも)を訪れたムスタキが、優しく語りかけるこの歌は、正に世界に
 向って訴える反戦警告の叫びなのです。

  「戦いに負けた国は、みじめである。
  しかし勝った国もまたみじめである。みじめでないのは、戦わなかった国だけだ」
       (ウォーターローの戦いで大勝したウェリントン将軍)

  幸いなことに私たちは今、「永遠に戦争はしない」、だから「戦力は持たない」という世
 界に誇る日本国憲法(第九条)の下に生きています。世界中の国々がこうなれば戦争は起こ
 しようがありません。
  「そんなことは理想だよ」、こんな声も聞こえてきますし、また国際関係というものが非
 常に複雑なことも事実ですが、国を守るのは戦力(・・)ではなく、あくまでもすぐれた外交
 に頼るべきでしょう。そうすれば、多少の利害はあっても、イラクのように多くの人が死に、
 国土が目茶苦茶になることはありません。

  今年89才の私は、少年時代からの戦争と悲惨な敗戦の歴史を、身をもってよく知っています。
  ところが、1984年の日清戦争以来続けてきた、日本の侵略と敗戦の歴史に学ぶことを知ら
 ない多くの政治家(選んだのは国民でした)達は、すでに憲法違反を重ねながら、莫大なお
 金を使って、日本を軍備世界第4位の国にまでのし上げ、ついに安倍自公政権に至って、第九
 条を変え、更に戦力を貯えて「戦争のできる国」に変えようとしているのです。
 これは大変なことです。

  「九条なんて知らないよ」「アメリカと戦争したなんてホント?」「北朝鮮が攻めてきた
 らどうする」――。そう仰る方、よく考えてみてください。核や現代兵器による戦争が地球
 人類の破滅に近づかせることを――。

  だから九条を守るために(「音楽・九条の会」が一生懸命立ち上がったのです。ご賛同いた
 だければ嬉しく存じます



第1回 日下部吉彦さん(音楽評論家 呼びかけ人・関西代表)
  講演などに呼ばれていったとき、本題に入る前に会場に向って私は必ず、こう問いかける。
 「このごろのテレビ、面白いですか?」
  それに対して返ってくる答えは、きまって「面白うなーい!」の大合唱。
  出てくる顔が決まっている。どのチャンネルに回しても、必ず何か食べている。タレント
 の女の子のせりふは3つしかない。「おいしーい」「すごーい」「ウソー!」要するに、ワ
 ン・パターン。
  さらに、近ごろのはやりは、政治ネタの「ショウ化」。ここでもお決まりの政治家や評
 論家らが出演していて、互いに怒鳴り合う。討論なんてものではまるでなくて、声の大き
 いものが勝ち。そして、なぜか「笑い声」(テープ出し)が入る。
  政治や社会ネタを娯楽番組にすることは、必ずしも悪いことではないが、問題はそのや
 り方。事件の本質とは無関係の「バトル」で、つまらないギャグで番組は終了。
  小泉前総理によって、政治は「ショウ」になったが、その視聴率通りに選挙結果が出る。
 国民は、メディアによって、完全に踊らされているのだ。踊る国民が悪いともいえるが、
 政治まで視聴率化させてしまうメディアの責任は、もっと大きい。
  そういうわけで、最近は、地上波テレビを全く見なくなった私だが、テレビに対するブ
 ーイングの声を、もっと上げるべきだと思う。
  昨年あたりから、急速に盛り上がっている「九条の会」の動きなども、地上波では全く
 報じない。やむを得ず私たちは、自らのホームページによって、広く同志に呼びかけるこ
 とにした。
  「音楽・九条の会」は、昨年(2006年)1月26日、大阪いずみホールで「旗上げコンサ

 ート」を開いて以来、その賛同者の総数は、全国で2800人を超えた。今年中には1万人を
 超えさせたいと念願している。